〔いじめは人間に備わった機能?〕
脳科学者の主張
『ヒトは「いじめ」をやめられない』(中野信子著、小学館、2017年)を読みました。著者の中野信子さんは脳科学者で、この本では脳科学の観点からみた「いじめ」について書いています。
結論から言うと、「いじめ」は本来人間に備わった機能であり、なくすことは難しいとのこと。
多くの人が
「いじめはなくせないのではないか」
と感覚的に思っていたことを、脳内物質の働きを取り上げてわかりやすく説明してくれています。
社会的な生き物の宿命か
人間は進化の過程で「社会脳」を発達させた社会的な生き物です。
他の獣に比べて戦闘能力の低い人間は、種として残るために社会的集団を作り、協力的な行動をとってきました。
集団で生活するためには、その機能を保つために、協力できない人、邪魔になる人、ズルをする人を排除しなければなりません。
そのため、集団を壊す恐れのある人を見つけ、制裁行動を起こして、排除しようとする機能が脳に備え付けられており、制裁行動は集団になればほぼ必ず生じるというのです。
いじめに関わる脳内物質
中野博士は「いじめ」に関わる脳内物質として、
- オキシトシン
- セロトニン
- ドーパミン
の3つを挙げています。
- 愛情を司るオキシトシンは、それゆえに「いじめ」を助長します。
つまり、仲間意識が強い集団になればなるほど、集団を守ろうとして排除機能が働くわけです。
そして集団の一員として行動するときに、理性は鈍化するということです。 - 安心ホルモンとも呼ばれるセロトニンについて。
世界各国の人々がもつセロトニン量について比較をした研究があるのですが、その調査結果によると、日本人が一番、セロトニンを少なくしようとする物質が多いという結果が出ました。
それで、日本人には不安症の人、慎重な人が多いということ。
不安に感じる人が多いので、集団にとってリスクになる存在を排除する機能が大きく働くのかもしれません。「いじめ」が日本に多く見られることと無関係ではないかもしれませんね。 - 快楽物質ドーパミンは、自分が生きていくために必要なもの(例えば食事)を得る時や、子孫を残すために必要な行為(例えばセックス)をする時に活性化します。
集団(種を守るためのもの)のために、ルールに従わない者に罰を与えるのは、「正義」であり、正義達成欲求や、集団からの承認欲求が満たされ、快感を覚えます。
快感は理性よりも強いのだそうです。
いじめは必要から備わった
こうしてみていくと、「いじめ」は必要から備わった機能によるもので、社会的生き物である限りなくならず、快感さえ感じさせるものであることがわかります。
大人の世界にも、職場「いじめ」、ママ友間「いじめ」等があり、
「経験豊富な大人が何をやっているんだ」
という気持ちになりますが、こうした理由もあるのかもしれないということがわかりました。
この後中野博士は、様々な「いじめ」について分析し、回避策を述べています。
学校教育のあり方に関しても提案しているので、次回、ご紹介したいと思います。
あなたは中野博士の説にどのような感想をもちましたか?
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